KGI と KPI の説明だけでは、表を作る所で迷う

KPI 設定を調べると、まず KGI(最終の目標)と KPI(そこへ向かう途中の数字)の違いが説明され、次に「具体的・測れる・届く・目標につながる・期限がある」の五つで目標を立てる SMART の考え方が出てきます。どれも正しい説明です。

ただ、実際に KPI の表を作り始めると、別の所で手が止まります。「この数字は 1 年の目標から取るのか、もっと短い目標から取るのか」「目標がどこまで進んだかも、KPI の表に並べてよいのか」「担当の欄には誰の名前を書くのか」。一般論はここに答えてくれません。

この頁では、大和ViSiON を運営する株式会社命が、自社の KPI の表を作り直した時に社長が下した判断をもとに、この三つの迷いへの答えを順に書きます。運営会社では、経営の数字の多くを AI エージェントが日々動かしています。その会社で決めた線は、人の部下に数字を任せる会社にもそのまま使えます。

目標の進み具合と KPI は、別の物差しで測る

運営会社では、90 日ごとに会社として達成する目標を置いています(社内では「石」と呼んでいます)。KPI の表を作り直す時、経営の進行役の AI エージェントは、KPI の行を 90 日の目標の下に入れ、目標の進み具合を KPI で測る案を出しました。

これに対して社長は「石と KPI って一体になるものなのか? 石は石で KPI は KPI じゃないの?」と返し、二つを分けることに決めました(社の実測 2026-10-25・株式会社命の判断の記録)。決めた形は次のとおりです。

  • 90 日の目標は、進み具合の段階(マイルストーン)で進める。KPI の表には入れない
  • KPI の表は、毎週の数字だけを並べる。そこに担当と見込みの欄を足す
  • 目標の側には「この目標で動かしたい数字」として KPI を目印で書くだけにし、進み具合の計算には使わない
90 日の目標と KPI の表 — 分けた後の持ち方
比べる所90 日の目標KPI の表
何を見るか目標がどこまで進んだか毎週の数字が見込みどおりか
進め方・測り方段階(マイルストーン)を一つずつ終える週ごとの数字を記録する
表に並ぶ物目標と、その段階毎週の数字だけ(担当と見込みの欄つき)
二つのつながり「この目標で動かしたい数字」として KPI を目印で書く目標の進み具合の計算には使われない

出典: 社の実測 2026-10-25(株式会社命の判断の記録・90 日の目標と KPI の表を分けた決め)。表の比べ方は大和ViSiON 編集部がまとめたもの

なぜ混ぜないほうがよいのか。目標の進み具合を KPI で測ると、数字が動けば目標も進んだことになります。けれど 90 日の目標には、仕組みを作る・人を入れる・売り方を替えるといった、数字が後から付いてくる仕事が多く含まれます。段階を一つ終えても数字がまだ動かない週は、数字で測ると「進んでいない」に見え、数字が偶然上がった週は、段階が残っていても「進んだ」に見えます。

分けておけば、読み方がはっきりします。目標の側では「段階は予定どおり終わっているか」を見て、KPI の表では「毎週の数字は見込みどおりか」を見る。段階は進んでいるのに数字が動かないなら、その目標で選んだ数字が合っていないか、効き始めるのがもっと先だと分かります。一つの物差しに混ぜると、この食い違いが見えなくなります。

KPI は 1 年の目標ではなく、90 日の目標から取る

同じ日、運営会社は 1 年の目標を KPI の行にしないことも決めました。社長の言葉は「年に関しては別にいらない気がする。90日の石のKPIから取る形で大きなゴールとしてのコンテクストとしてみれればいいかと」です。KPI は 90 日の目標から取り、1 年の目標は大きなゴールの文脈として読むだけにしました。あわせて、年の目標そのものも考え直すことにしています(社の実測 2026-10-25・株式会社命の判断の記録)。

一般的な説明では、年の KGI を決め、そこから KPI へ分けていく順が多く紹介されます。この順の弱い所は、年の目標から直接 KPI を引くと、毎週の数字と年のゴールの間が遠すぎることです。今週の数字が少し下がっても、年の目標に対してどれほどの意味があるのかが読めません。

90 日の目標から取ると、間に一段が入ります。年のゴールは「どちらへ向かうか」を決め、90 日の目標は「この四半期に何を終えるか」を決め、KPI は「その目標のために毎週どの数字を動かすか」を決めます。毎週の数字は、すぐ上の 90 日の目標と結びついているので、下がった時に何を直せばよいかを考えやすくなります。

使った量を KPI にしない — 出した数・試した数で表す

KPI の表を作り直す時、部門ごとの AI の使用量(トークンの消費量。AI に仕事をさせた分だけ増える量)を KPI にする案も上がりました。社長は一度、使用量を「効果的に増やす」方向を示しましたが、その後「トークン消費量を KPI にするのはやめましょうか」と言って、この案を外しました。仕事の量は、使った量ではなく、出した数・試した数で表す方向にしています(社の実測 2026-10-25・株式会社命の判断の記録)。

使った量は、増やそうと思えば簡単に増やせます。AI に同じ仕事を何度もさせても、長い指示を渡しても増えます。人の仕事でいえば、残業の時間や使った経費を KPI にするのと同じで、数字は伸びても、成果が伸びたかどうかは分かりません。むしろ、使った量を KPI にすると、少ない量で同じ成果を出す工夫が「数字を下げる行い」に見えてしまいます。

出した数・試した数なら、増えた分だけ世に出た物や確かめた事が残ります。仕事の量を KPI に入れたい時は、「入れた物」ではなく「出てきた物」を数えるかどうかで選ぶと、外れにくくなります。

担当の欄には、数字を動かす人を書く

作り直す前の運営会社の KPI の表では、多くの行の担当が経営の進行役の AI エージェントに集まっていました。これを、実際にその数字を動かす担当の AI エージェントへ配り直しました。進行役が出した選択肢のうち、推奨としていた案のとおりです(社の実測 2026-10-25・株式会社命の判断の記録)。

担当がまとめ役に集まるのは、よくあることです。表を作った人や、会議で数字を読み上げる人の名前が、そのまま担当の欄に入るからです。けれどその人は、数字を読むことはできても、数字を動かす手を持っていません。数字が見込みより下がった週に「どう直すか」を答えられるのは、その数字を動かしている人だけです。

担当を動かす人に配ると、KPI の表を読む場の進み方も変わります。下がった数字の行を見れば、誰に理由と次の手を聞けばよいかが一目で分かります。担当と見込みの欄が毎週の数字の横に並んでいるのは、そのためです。誰にどこまで任せるかの線の引き方は、AI 駆動経営 — 判断まで AI に任せる会社の作り方に書いています。

KPI 設定方法 — 五つの手順

ここまでの決めを、自社で KPI を設定する時の手順に直すと次のとおりです。

  1. 1 年の目標を、大きなゴールとして一文で読む。ここから直接 KPI は引かない。向かう方向を確かめるために置く
  2. 90 日の目標を決め、その段階(マイルストーン)を並べる。目標の進み具合は、この段階が終わったかどうかで測る
  3. 目標ごとに「この目標で動かしたい数字」を選び、目標の側に目印で書く。この数字が KPI になる。進み具合の計算には入れない
  4. KPI の表には、毎週測れる数字だけを並べる。使った量(時間・経費・AI の使用量)は外し、出した数・試した数で表す
  5. 担当の欄には、その数字を実際に動かす人を書き、見込みの欄を足す。表を作った人やまとめ役の名前を、そのまま入れない

KPI 目標設定の例 — 目標と数字の組み方

手順の 3 と 4 を、よくある 90 日の目標に当てはめると次のようになります。数字の中身や目標値は、会社ごとに違うので書いていません。見てほしいのは、目標の進み具合と KPI が別の列に分かれていることと、外した物の列です。

90 日の目標と、KPI の組み方の例
90 日の目標の例進み具合の段階の例動かしたい数字(KPI)の例KPI にしない物の例
問い合わせの入口を新しく作る案内の頁を出す・申込の流れを整える毎週の問い合わせ数頁づくりにかけた時間
発信を週ごとに続けられる形にする出す順を決める・作る担当を決める毎週出した数・試した題の数AI の使用量
一度買った人の次の申込を増やす案内の文を作る・送る時期を決める毎週の次の申込の数送った案内にかけた経費

出典: 大和ViSiON 編集部が手順を説明するために作った例(運営会社の実際の KPI の行や数字ではない)。KPI にしない物の考え方は、社の実測 2026-10-25(株式会社命の判断の記録・使用量を KPI から外した決め)による

どの行でも、段階が終わったかどうかと、毎週の数字が見込みどおりかは、別々に読みます。段階は全部終わったのに数字が動かない目標は、次の 90 日で選ぶ数字を替える候補になります。

KPI を何のために置くかは、会社が何を増やしたいかで決まります。運営会社が売上や効率だけでなく、純資産と資産からの収入を物差しにしている考え方は、AI 経営とはにまとめています。

よくある質問

KPI 設定とは何ですか

90 日の目標で動かしたい数字を毎週測れる形で選び、その数字を実際に動かす担当へ配ることです。目標そのものの進み具合は段階(マイルストーン)で測り、KPI とは混ぜません。

KGI と KPI の違いは何ですか

KGI は最終の目標で、KPI はそこへ向かう途中で毎週動かす数字です。運営会社では、年の目標は大きなゴールとして読むだけにし、KPI は 90 日の目標から取っています(社の実測 2026-10-25・株式会社命の判断の記録)。

目標の達成率を KPI にしてはいけませんか

目標の進み具合を KPI で測ると、数字が偶然動いた週に目標も進んだように見え、段階と数字の食い違いが見えなくなります。目標は段階で進め、KPI の表には毎週の数字だけを並べるほうが、どこを直せばよいかが分かります。

作業時間や AI の使用量を KPI にしてもよいですか

使った量は、成果が伸びなくても増やせるので、KPI には向きません。運営会社も AI の使用量を KPI にする案を外し、出した数・試した数で表す方向にしました(社の実測 2026-10-25・株式会社命の判断の記録)。

KPI の担当は誰にすればよいですか

その数字を実際に動かす人です。表を作った人やまとめ役に担当が集まると、数字が下がった時に次の手を答えられる人がいなくなります。

出典

  • 株式会社命の判断の記録(KPI の行を 90 日の目標の下に入れる案に対し、目標は段階で進めて KPI の表に入れず、KPI の表は毎週の数字だけにして担当と見込みの欄を足し、目標の側には動かしたい数字を目印で書くだけにした・社の実測 2026-10-25)
  • 株式会社命の判断の記録(1 年の目標を KPI の行にせず、KPI は 90 日の目標から取り、年は大きなゴールの文脈として読むだけにした・社の実測 2026-10-25)
  • 株式会社命の判断の記録(部門ごとの AI の使用量を KPI にする案を外し、出した数・試した数で表す方向にした・社の実測 2026-10-25)
  • 株式会社命の判断の記録(進行役に集まっていた KPI の行の担当を、数字を動かす担当の AI エージェントへ配った・社の実測 2026-10-25)