行動指針の意味 — 決めつけではなく「既定」

行動指針は、社員や AI エージェントが人と向き合う場面で、迷わずに最初の一手を出すための決まりです。問い合わせへの返事、お客様への案内、社内での頼み方。こうした場面では、相手がどれだけ詳しいか、どれだけ時間があるか、どんな事情を抱えているかが、こちらからは見えません。見えないまま毎回考えていると、人によって向かい方がばらつきます。

そこで「相手が見えない時は、こう始める」という既定を先に決めておきます。これが行動指針です。大事なのは、既定は相手を決めつけるための物ではないことです。話していて相手との差が見えたら、その相手に合わせて差し替えます。行動指針は、差し替える条件まで書いて初めて使える形になります。

行動規範・コアバリューとの違い

行動指針と並んで出てくる言葉に、行動規範とコアバリューがあります。三つとも「会社の決まり」ですが、答えている問いが違います。コアバリューは、二つの物がぶつかった時に何を先に取るかを決めます。行動規範は、してはいけない事の線を引きます。行動指針は、人にどう向かうかの既定を決めます。

行動指針・行動規範・コアバリューの違い
比べる所行動指針行動規範コアバリュー
答える問い相手が見えない時、人にどう向かうか何をしてはいけないかぶつかった時、何を先に取るか
書き方「〜の時は、〜から始める」「〜しない」「AよりBを先に取る」
相手によって変わるか変わる(差し替える条件を一緒に書く)変わらない変わらない
破った時差が見えたのに差し替えなかった所を直す守れなかった事として扱う取った順が正しかったかを振り返る

出典: 大和ViSiON 編集部による整理(一般的な用語の使い分け。行動指針の「既定と差し替え」の考え方は株式会社命の規則の紙(2026-10-26 時点)による)

何を先に取るかを決める側の話は、同じ日に出したコアバリューとはで書いています。この頁は、人にどう向かうかの側だけを扱います。

既定と、差し替える条件を一組で書く

行動指針を書く時は、既定の一文だけで終わらせず、どんな時にどちらへ差し替えるかを隣に書きます。差し替えには向きがあり、すぐに動かしてよい向きと、動かしてはいけない向きがあります。株式会社命の規則の紙では、言葉の難しさについて次の決まりを置いています(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。

  • 言葉を上げてよいのは、相手が先に使った語だけ
  • 下げるのはいつでもできるが、上げ直すのは難しい
  • 1 度わからない言葉を出された人は、ここは自分に向いていないと判断し、離れていく(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)

つまり既定は「低い方」に置き、相手が自分から詳しい言葉を使った時だけ、その語の高さまで上げます。逆向き、つまり高い所から始めて相手を見て下げる形は取りません。一度離れた人は、こちらが言葉を下げても戻ってこないからです。

行動指針の既定と、差し替える条件の組
場面既定(相手が見えない時)差し替える条件差し替えない向き
言葉の難しさ誰にでも通じる言葉で始める相手が先に使った語は、その語のまま使ってよい相手が使っていない難しい語へ上げる
相手の立場の見立てどちらか分からないので、低い方に合わせて始める話していて差があれば、相手に合わせて差し替える見立てを最初から断定する
出さない語一覧の語は文面に入れない一覧そのものを、話していて分かった差で書き直す一覧に当てずに送る
人への頼み事頼まずに済む道を最後まで探す頼む時は、それが可能かを先に一つ問う相手の手間をこちらで勝手に見積もる

出典: 株式会社命の規則の紙(2026-10-26 時点)・社の実測 2026-09-19(株式会社命の判断の記録)

運営会社が行動指針を規則に入れた時、社長が直した三つの所

大和ViSiON を運営する株式会社命は、AI エージェントが「人に向かう時の線」を規則の紙に入れました。その時、社長は出てきた案を 3 点直しています(社の実測 2026-09-19・株式会社命の判断の記録)。どれも、行動指針を「決めつけ」から「既定」へ戻す直しでした。

行動指針の案と、社長が直した後
直した所直す前の案直した後
人の代わりに動く口3 つ4 つ。携帯に届く確認の番号はメールでは受けられないので、携帯と同期する口を足した
相手の見立て相手を「弱者である」と断定する「どちらか分からないから、低い方に合わせて始める(逆は済まない)」
読み手の物差しと出さない語決まった物として書く「既定であって決めつけではない。話していて差があれば差し替えていく」

出典: 社の実測 2026-09-19(株式会社命の判断の記録)

一つ目の直しは、相手に手間をかけさせないための物です。確認の番号が携帯にしか届かないのに、受け取る口がメールしか無ければ、そのたびに人へ「番号を教えてください」と頼むことになります。口を足せば、その頼み事そのものが消えます。二つ目と三つ目は、相手を一つの像に決めつけず、見えない間の始め方だけを決める直しです。「低い方に合わせて始める」には、低く始めて外れても上げれば済むが、高く始めて外れると取り返せない、という向きの理由が付いています。

行動指針の例文 — 人に向かう時の線

株式会社命の規則の紙にある決まりを、他の会社でもそのまま使える形の例文に直しました(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。自社の言葉に置き換えて使えます。

  • 相手の事情が分からない時は、低い方に合わせて始める。話していて差が見えたら、相手に合わせて差し替える。
  • 相手が先に使った言葉は使ってよい。相手が使っていない難しい言葉は出さない。
  • 人への文面には、出さない語の一覧を持つ。送る前に一覧に当て、当たる語が無いことを確かめてから送る。
  • 「できません」とは言わない。何があればできるかを探し、要る道具を自分で揃えてから、もう一度やる。
  • 相手の手番の重さを、こちらで勝手に見積もらない。頼む前に、それが可能かを一つ問うか、頼まずに済む道を最後まで探す。
  • 人が手でやっている作業を見たら、それを無くす案を出す。

例文はどれも「〜の時は、〜する」か「〜しない」の形で、読んだ人が次の一手を迷わない長さにしてあります。理念のような「誠実に向き合う」「お客様第一」といった文は、それだけでは場面ごとの一手が決まらないため、行動指針の例文としては使いにくい形です。

運営会社の規則の紙では、送る前の確かめを「一覧に当てて 0 件を確かめる」形で置いています(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。人が読んで気をつけるだけでなく、送る前に必ず通る確かめにしておくと、書き手が人でも AI エージェントでも同じように守られます。

自社の行動指針の作り方

行動指針は、立派な言葉を考えるところからは始めません。人と向き合う場面で、すでに起きた食い違いから書き起こします。

  1. 人と向き合う場面を書き出す(問い合わせ・案内・社内での頼み事など)
  2. 場面ごとに、相手が見えない時の既定を一文で決める。迷ったら、外れても取り返せる方を既定にする
  3. 既定の隣に、差し替える条件と、差し替えてはいけない向きを書く
  4. 出さない語の一覧を作り、送る前に当てる確かめを決める
  5. 相手との差が見えて差し替えた場面を記録し、既定そのものを直していく

行動指針を社員だけでなく AI エージェントにも渡すと、相手が見えない場面での向かい方が、担い手によってばらつかなくなります。経営の判断を AI に任せる全体の考え方はAI 経営とはに、決めた事を AI に問われながら書き残すやり方はAI 壁打ちとはに書いています。社内の決まりをどう書き分けるかは社内ルールの読み物も合わせて読めます。

自分の会社が今どの段にいて、決まりをどこまで任せられる形にするかは、資産家昇格の段の地図で確かめられます。

よくある質問

行動指針とは、簡単に言うと何ですか

相手の事情が見えない時に、人へどう向かうかを先に決めておく既定の振る舞いです。決めつけではないので、話していて相手との差が見えたら、決めた条件で差し替えます。

行動指針と行動規範は何が違いますか

行動規範は「何をしてはいけないか」の線で、相手によって変わりません。行動指針は「どう向かい始めるか」の既定で、相手に合わせて差し替える条件まで一緒に書きます。

行動指針とコアバリューは何が違いますか

コアバリューは、二つの物がぶつかった時に何を先に取るかを決めます。行動指針は、人にどう向かうかを決めます。同じ会社の中で、役目を分けて両方を持つ形が使いやすくなります。

行動指針の例文には、どんな物がありますか

「相手の事情が分からない時は、低い方に合わせて始める」「相手が先に使った言葉だけを使う」「『できません』と言わず、何があればできるかを探す」などです。どれも場面と一手が一文で分かる形にしておくと、読んだ人が迷いません。

出典

  • 株式会社命の判断の記録(「人に向かう時の線」を規則の紙に入れた時の、社長による案の直し・社の実測 2026-09-19)
  • 株式会社命の規則の紙(出さない語の一覧と送る前の確かめ・言葉を上げ下げする決まり・「できません」を言わない決まり・2026-10-26 時点)