稟議書の書式は、どこの会社もほぼ同じ

稟議書は、自分に決める権限の無い事柄について、決める権限を持つ人に実行を認めてもらうために回す書面です。物を買う、契約を結び直す、人を採る、新しい取り組みを始める。こうした事柄を、口頭ではなく紙で上げ、誰がいつ認めたかを残すために使われます。

書式の欄は、会社が違ってもおおむね揃っています。検索して出てくるひな形も、並びは少し違っても、中身は次の表の欄でほぼ尽きます。

一般的な稟議書の書式の欄
欄書くこと
件名何についての稟議か
起案日・起案者いつ、誰が上げたか
目的・背景なぜ必要か
内容何を、どうするか
費用いくら掛かるか、どこから出すか
効果実行すると何が良くなるか
添付見積書・比較表など

出典: 大和ViSiON 編集部のまとめ(一般的な稟議書の書式の欄を並べたもの)

欄を埋めれば形は整います。けれど、欄が全部埋まっているのに、社長から「これは何の話?」「で、どれにすればいいの?」と返ってくる紙はなくなりません。書式が同じでも、決める人がその場で決められる紙と、聞き返される紙に分かれます。差は欄の数ではなく、欄の中の書き方にあります。

決める人が聞き返す紙には、決まった形がある — 運営会社の記録

大和ViSiON を運営する株式会社命では、社長に判断を仰ぐ紙の多くを AI の席が書いています。その説明が社長に伝わらず聞き返された回や、取り違えられた回を、判断の記録に「説明の解像度」という型で 1 行ずつ書いています。この型の行は、2026-09-16〜2026-10-26 で 38 行ありました(社の実測 2026-10-26・株式会社命の判断の記録)。

書き手が人でも AI でも、聞き返される紙の形は変わりません。記録に残った形を三つ挙げます。どれも書いた側には意味が通じていて、読む側にだけ通じなかった紙です。

社長に聞き返された紙の形(中身は伏せ、形だけを挙げる)
記録した日紙の形読む側に欠けていた物
2026-09-18社内だけの呼び名を書き、何を・どこへ・なぜを一度も添えなかったその名前が何を指すか
2026-10-03記号と数字だけを並べた数字が何を意味し、どちらが良いのか
2026-10-08略した言葉で書いた略す前の言葉

出典: 社の実測 2026-10-26(株式会社命の判断の記録・「説明の解像度」の型の行から形だけを抜き出した。「読む側に欠けていた物」は編集部のまとめ)

三つに共通するのは、書く人が毎日使っている言葉で書かれていることです。社員が書く稟議書でも、部署の中だけの呼び名、案件の番号だけ、社内の略語は、そのまま紙に出てきます。書いた本人には分かるので、本人が読み返しても気づけません。

聞き返されない一枚に足す、五つの欄

株式会社命は、聞き返された回を受けて、判断を仰ぐ紙の書き方を規則の紙に決めています(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。稟議書の書式の欄はそのままに、その中身を次の五つの欄の形で書く、というのが要点です。

聞き返されない一枚の五つの欄
欄書くこと抜けたとき、社長が聞き返すこと
一、何の話か最初の一文で、決める対象を名前と在り処で言う。続けて、それが何で、今どう動いていて、なぜ困っているかを、初めて聞く人の言葉で書く「これは何の話?」
二、選択肢ごとに何が起きるかA を選べば何が起きる、B を選べば何が起きる、を一つずつ書く「それぞれ、どうなるの?」
三、推奨と理由書いた人ならどれを選ぶか、なぜか「で、どれがいいと思う?」
四、決めないと何が起きるか決めずに置いたとき、いつ何が止まるか「急ぎなの?」
五、その他(自由記入)どの選択肢にも当てはまらない答えを書ける空き欄(空き欄が無いと、社長は選択肢の外の答えを書けない)

出典: 株式会社命の規則の紙(2026-10-26 時点)。四つ目の欄と「抜けたとき、社長が聞き返すこと」の列は編集部のまとめ

最初の一文で、何の話かを言う

決める人が最初に知りたいのは、選択肢より先に「何の話か」です。株式会社命の規則の紙では、決めてもらう資料は「何の話か」から始め、選択肢の前に、それが何で、今どう動いていて、なぜ困るかを、初めて聞く人の言葉で書くと決めています。この決まりは 2026-09-18 に足されました(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。さらに 2026-09-26 には、決める対象を最初の一文で名前と在り処で言う、という決まりが足されています(同)。

名前を出したときは、その場で「何か(一文で)・どこにあるか・決める人に何が見えるか」を添えます(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。社内の呼び名を使うのが悪いのではなく、呼び名だけで終わるのが聞き返される原因です。

選択肢は「何が起きるか」まで書く

「A 案と B 案があります」で止めると、社長は自分で二つの先を想像しなければなりません。選択肢は「A なら何が起きる/B なら何が起きる/推奨と理由」まで書き、読んでその場で決められる解像度にします(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。推奨を書くのは、決める人に答えを押しつけるためではありません。書いた人がどう考えたかが分かれば、社長は「推奨どおりでよい」か「ここが違う」かを、短い言葉で返せます。

「その他(自由記入)」を必ず付ける

選択肢を二つか三つに絞ると、社長が考えている四つ目の答えの置き場がなくなります。株式会社命では、どの問いにも「その他・自由記入」を付けると決めています(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。空き欄があれば、社長は選択肢を無理に選ばず、自分の言葉で答えを書けます。

書き方の見本 — 直す前と後を並べる

紙を直すときは、直した後の文だけを渡すより、今の文と直した後の文を左右に並べたほうが、何が変わったかがすぐ分かります。株式会社命でも、直す紙の提案は左右に並べた差分で出すと決めています(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。次の見本は、編集部が作った架空の稟議書を、五つの欄の形に直したものです。

架空の稟議書を、五つの欄の形に直した見本
欄今の文(聞き返される)直した後の文(その場で決められる)
件名・最初の一文勤怠の件、切り替えのお願い営業部が出退勤を付けている表計算のファイル(共有の場所の「勤怠」の棚)を、勤怠の専用の道具に替えるかを決めてください
何の話か現行は限界のため今は各自が月末にファイルへ打ち込み、総務が手で集めています。打ち間違いを見つけるのが月の締めの直前になり、毎月直しが出ています
選択肢A 案/B 案A:専用の道具に替える。打った日にずれが見え、総務が集める手間がなくなる。最初の月は全員に使い方を教える手間が出る
B:今のファイルのまま、打ち込みの期限を週ごとにする。費用は掛からないが、集める手間は残る
推奨と理由(なし)推奨は A。直しの元は「集めるのが月末」にあり、B では期限を早めても手で集める所が残るため
決めないと(なし)今のまま来月の締めを迎え、同じ直しがまた出ます
その他(なし)その他(自由記入):

出典: 大和ViSiON 編集部が作った架空の見本(直し方は株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点の決まりに沿った)

費用の欄は、会社の書式どおり見積書を添えて書きます。五つの欄は書式を置き換える物ではなく、書式の欄の中身をどう書くかの決まりです。今使っているひな形があれば、そのまま使い、欄の中を五つの形に沿って書き直すだけで足ります。

目的別の書き出しの例文

五つの欄の中でいちばん書きにくいのは、最初の一文です。目的ごとに、決める対象を名前と在り処で言う書き出しの例を挙げます。どれも編集部が作った例で、名前と在り処の所を自社の言葉に替えて使ってください。

目的別の稟議書の書き出し(最初の一文)の例
目的最初の一文の例続けて書く選択肢の例
備品の購入本社二階の会議室にある映写機を、買い替えるかを決めてください買い替える/修理して使う/借りる
契約の更新来月で期限が来る、事務所の複合機の保守の契約を、更新するかを決めてください同じ条件で更新/条件を見直して更新/更新しない
人の採用経理の担当を、来期から一人増やすかを決めてください社員で採る/外に頼む/今の人数のまま
出張来月の展示会に、営業部から誰を何人出すかを決めてください二人で出る/一人で出る/出ない
新しい取り組み問い合わせの窓口を、電話だけから電話と書き込みの両方にするかを決めてください両方にする/書き込みだけ試す/今のまま

出典: 大和ViSiON 編集部が作った例文

どの例も、最初の一文に「何を」「どこの」「決めてほしい」が入っています。「〜の件」で始めず、「〜するかを決めてください」で終える形にすると、読む側は最初の一文で、この紙が自分に何を求めているかが分かります。

社長の側で決めるのは、上がってくる紙の形

ここまでは書く側の話でした。受け取る側の社長にとって、聞き返しは一回ごとに手が止まる時間です。書く人に「分かりやすく書いて」と頼んでも、何が分かりやすいかは人によって違います。だから社長が決めておくのは、上がってくる紙の形のほうです。「最初の一文で何の話か」「選択肢ごとに何が起きるか」「推奨と理由」「決めないと何が起きるか」「その他」の五つが無い紙は、受け取らずに返す。それだけで、書く側は何を直せばよいかが分かります。

形が揃うと、もう一つ良いことがあります。推奨と社長の答えが並ぶので、どの型の判断で推奨が当たっているかが見えるようになります。株式会社命では、問いには必ず予測(推奨)を書き、同じ型で 5 回続けて社長の答えが推奨どおりなら、その型は以後聞かずに AI の席が決めて、事後に知らせると決めています(株式会社命の規則の紙・2026-10-26 時点)。稟議の形を揃えることは、社長が決める回そのものを減らす入口にもなります。推奨と答えを並べる問い方はAI 壁打ちの頁で、判断を AI に任せる経営の全体はAI 経営とはで書いています。

自分の会社で、判断を任せる仕組みが今どの段まで出来ているかは、資産家昇格の段の地図で確かめられます。

よくある質問

稟議書の書き方のコツは何ですか

最初の一文で、決める対象を名前と在り処で言うことです。そのうえで、選択肢ごとに何が起きるか、推奨と理由、決めないと何が起きるかを書き、最後に「その他(自由記入)」の欄を付けると、決める人は聞き返さずにその場で決められます。

稟議書のテンプレートはありますか

この頁ではひな形のファイルは配っていません。今の会社の書式をそのまま使い、欄の中身を「何の話か・選択肢ごとに何が起きるか・推奨と理由・決めないと何が起きるか・その他」の五つの形で書けば足ります。

稟議書に推奨を書くと、決める人に押しつけることになりませんか

押しつけにはなりません。書いた人がどう考えたかが分かると、決める人は「推奨どおり」か「ここが違う」かを短く返せます。推奨を外れる答えのために「その他(自由記入)」の欄を必ず付けておきます。

社内の呼び名や略語を使ってはいけないのですか

使ってかまいませんが、呼び名だけで終えないことです。名前を出したら、その場で、それが何か・どこにあるか・決める人に何が見えるかを添えます。株式会社命の記録でも、名前だけ・略した言葉だけの紙が聞き返されていました(社の実測 2026-10-26・株式会社命の判断の記録)。

出典

  • 株式会社命の判断の記録(「説明の解像度」の型の行・2026-09-16〜2026-10-26・社の実測 2026-10-26)
  • 株式会社命の規則の紙(判断を仰ぐ紙の書き方の決まり・2026-10-26 時点)